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自治体政策セミナーに出席(4月26日・27日)
講演する森教授
都内で開かれた自治体政策セミナーに4月26日と27日に参加しました。
26日は、立命館大学の森裕之教授を中心とした講演で、前半は「自治体財政をめぐる現況と課題をどう読み解くのか」、後半は「公共施設の維持管理・再配置計画にどう対処する」がテーマです。
講師はまず国家予算の国土強靭化と成長戦略の政策が、自治体に悪い影響を与えていると指摘。たとえば、国の防災安全交付金は地方の要望額がほぼ全額認められているが、社会資本整備交付金は6割ほどしか認められていないと紹介しました。蕨市議会でも錦町区画整理会計への国の補助金が、市の見込みより減額になったことが議論されましたが、これを裏付けるものです。
13年度の地方公務員の給与特例減額に応じた自治体とそうでない自治体で、「がんばる地方交付金」の交付率に差をつけるやり方や、「地域の元気創造事業費」の算定指標に、「行革努力の取組」をあげ、債務残高削減率や経常的経費削減率などが高いところほど補助金を増やすやり方など、補助金というエサで、自治体同士をリストラで競わせるやり方を厳しく告発しました。
さらに、国土強靭化基本法に言及。キーワードは民間開放や民間資金活用です。高さ10m、総延長400km、総額8500億円の防潮堤が計画されたり、首都圏直下地震が予想されるのに、東京一極集中で成長戦略が検討される異常さを指摘しました。
最後に講師は、今必要なのは大都市圏への集中・集積ではなく、地域分散的な国土作りだと提起。高度成長期は地方の資源を大都市に集中したやり方が奏功したが、人口減少時代にはそれは通じず、「自律的な地域循環型の社会経済構造とネットワーク形成をめざす」べきだと述べました。
後半の、公共施設については、全国の施設老朽化の現状を示し、政府の対策として、「公共施設等総合管理計画」の策定への助成、「計画」にもとづく施設解体撤去への地方債特例措置(14年度300億円)などがあると説明。その背景には、総務省の調査で解体撤去が必要な施設が全国で1万2千棟以上あり、その総費用は4千億円との結果があります。講師は、財源対策や統廃合のための公共施設の維持・再配置議論になっていると批判し、そうではなく、「住民参加による身近な公共施設の維持補修・管理とコミュニティ活性化への効果」を求めるものでなければならないと述べ、行政と住民とで対等な立場での『公共施設白書』をつくることを提案。「公共施設をどのように利活用すれば、住民・コミュニティが人間的・社会的・経済的に元気になるのかが決定的に重要」と述べました。
講演後の会場からの発言では、習志野市や北区で、東洋大学のN教授が公共施設再整備の審議会等の責任者になり、大企業が喜ぶ方向での「計画」作りが、市民が傍聴もできない中で進んでいることが報告されました。どちらも敷地面積15%削減が目標だそうです。N氏の議論のねらいについて講師は、「その目的は不動産の流動化だろう」とズバリ指摘しました。他に、相模原市・仙台市・鎌倉市・目黒区の状況について発言がありました。
蕨市でも公共施設の管理計画がつくられつつありますが、講師の言う「住民とコミュニティが元気になる視点」が大切であり、日本共産党市議団としても提言・提案を行っていく決意です。
セミナーの2日目は、「自治体民間化の現況と課題」と題して尾林弁護士が講演しました。ここ10数年の「民間化」の状況を振り返り、指定管理者制度、PFI、地方独立行政法人、特別区域(特区)、自治体職場への労働者派遣、市場化テストの各制度についてと、分野別の「民間化」の事例として、保育、図書館、介護、水道、体育施設、学校給食、病院、戸籍・国保事務などの問題点に言及しました。指定管理については、総務大臣自身が「官製ワーキングプァというものを随分生んでしまっている(11年1月5日記者会見)」と述べるなど、住民サービス低下、行政との癒着、雇用問題が広がっていて、8万施設が指定されたが、うち4千5百施設以上で指定取り消しがされているとの統計も示しました(資料は自治体問題研究所の角田英昭氏による)。
『PFI神話の崩壊』との著書を持つ講師は、特にPFIについて詳述。事業者の破産・汚職・撤退などの数々の例を示しました。PFIはもともと民間の資金と技術・ノウハウの活用が触れ込みだったのに、最近PFIが広がらないことへの焦りか、政府が官民共同のPFI推進機構を立ち上げたことを指摘し、民間の活用のために、官が資金を出すのでは、従来型の公共事業と変わらないと指摘。「アベノミクスをあおるもの。自民党型大型公共事業の再起動であり、大企業応援の逆転の発想」だと、厳しく批判しました。同様の批判が朝日新聞3月25日付の社説(注参照)に載り、「ようやく私の批判に朝日も追いついてきた」と述べました。講師は水道の分野については、全国で水道設備の老朽化が問題となり、次の施設更新時にPFI化の動きが出てくるだろうと注意を喚起。水道にPFIを導入し民間が管理するとどうなるか。初めは安い料金だが、知識も人材も役所からいなくなると、料金や安全のチェックができず、住民が民間水道の言いなりになると指摘しました。
最後に講師は、市民の人権、命や健康にかかわるもの、福祉や教育は絶対に民間化してはいけないと、セミナー参加者の奮起を訴えました。
2日目も参加者から発言。民間化のデパートといわれる足立区政について、ぬかが和子区議(共産党)が報告。戸籍は富士ゼロックス、介護はテンプスタッフ、国保はNTTデータ、会計管理はパソナ、課税はTIS、保育入所業務はNEC、児童手当支給業務は三井物産グループなど、委託のデパートの実態と議会論戦と市民運動が紹介されました。子ども子育てシステムを先取りしていると言われる横浜市からは、保育の実態報告。582の保育園の2年度分の全決算を調査したところ、民間保育園は公立保育園の6割しか人件費を払っていないこと、ある法人ではひと園当たり7千万円の運営費が法人本社に吸い上げられていること、別の法人では1億円以上の運営費が隣の東京の保育園建設に使われていること、保育士の経験も社会福祉法人では6年強が平均だが、株式会社では1年から1年9カ月ほどだと驚きの報告がありました。近々国会でとりあげるため、その準備しているとのことです。
他に、神戸市・三重県いなべ市・京都市・狭山市、長野県安曇野市、富山市、などから。狭山市では、老朽化した保育園を建て替えて、この4月から指定管理者制度による運営になっているとの話でした。
講師は、運動の進め方についても助言。横浜は保育の企業化の最前線だと述べ、市民に分かりやすい批判のし方として、現場の貧しさ(ビルや高架下の保育園)と、吸い上げられた収益が何に使われているのか、そのコントラストを示すことも重要、と述べました。
注、朝日新聞3月25日付社説より引用:「これまで実施された400件余、総額4兆円強のPFIを政府が分析したところ、4分の3は単なる延べ払いだった。建設費や一定期間の管理費を民間が立て替え、国や自治体が分割返済していく手法だ。『施設の安易な新設につながった』との批判が絶えない。」