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自治体学校レポート(3)
「コロナ禍2年目 地方をめぐる情勢と対抗軸」特別講演を視聴して
市議会議員 宮下 奈美

今年の自治体学校の特別講演は、自治体問題研究所理事長・京都橘大学教授の岡田知弘氏が行いました。 岡田氏は、安倍・菅政権の下で「自治体戦略2040構想」に集約されるデジタル化と広域化を軸にした改革がすすめられていることについて、「これは住民の福祉の向上に資するものになっておらず地方自治を破壊する側面の方が強いとも言える」と問題を提起しました。以下、講演の主な内容を紹介します。なお、中見出しは講演レジュメの項目を引用しています。

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コロナ禍の波状的拡大と姿勢の連続
コロナ対策の失政と世論の批判から7年8ヶ月続いた安倍内閣が終わり、「アベ政治」を継承する形で菅内閣が発足しました。しかし、その現状は、オリンピックを最優先する政治のもとで、感染拡大の第3・4波が国民の命を襲い、4度目の緊急事態宣言等の影響により地域社会の持続性を奪っています。そういう中で菅内閣はデジタル庁設置をはじめとする国家戦略特区法に基づくスーパーシティ構想の具体化等、財界サイドからの改革要求を優先しています。

こうした政治状況を受けて、岡田氏は、「今後は、コロナ禍で多くの市民の命、健康や生活が脅かされる中、改めて国や地方自治体の役割や公共性が問われる」と危機感を示しました。

この間、政府は新型コロナ感染拡大の混乱に便乗し、検察庁法案、国家戦略特区法、国民投票法、デジタル改革関連法、老人医療費二倍化、病床削減、重要施設等周辺土地利用規制法を出してきました。特にアフターコロナ成長戦略のデジタル・ニューディールの推進や、原発推進、中小企業淘汰策は、新型コロナ第3・4波がなぜ襲ってきたのか、政治の失敗の根本的原因を考えず、命を脅かしている今の国民生活の現状に全く目を向けてないものです。

コロナ失政の根本的原因は、三位一体改革など、新自由主義的構造改革の累積による「公共」の後退にあります。保健所・公立病院の縮小、市町村合併の促進、公務員削減とアウトソーシングなど歴代政権の政策が、コロナ禍への対応に深刻な影響を及ぼしたことは明白です。また、安倍政権以降の問題として、政官財抱合体性の強まり、お友達企業の優遇、忖度政治の横行、公的データや公文書の破棄・改ざんに見られる科学性・公正さの否定といった問題もあります。さらにこうした失政が、一部の地方自治体でも現れていることは重大です。

政権がめざす国と地方自治体像
特に、国と地方行政の情報システムの共同化・集約化など、デジタル化推進を担うデジタル庁は各省庁よりも権限が上に位置付けられ、職員(定数500)の内100名以上が民間企業に席を置く社員が仕事に当たるなど、「行政の私物化」の土壌形成ではないか」と警鐘を鳴らします。

マイナンバー制度の普及と国が国民の情報をビジネス活用するため、現行の自治体が制定した個人情報保護条例を「リセット」する方向で進展していると指摘し、「いわばデジタル化をてこに地方自治体を国の従属物にする方向に向かっていくもの」と述べました。

デジタル改革と住民
コロナ禍での対抗軸と展望
 「デジタル改革で住民は救われるのか」と岡田氏は問いかけます。未成熟なAIやICT技術の問題性を指摘しつつ「個人情報保護は基本的人権と民主主義の前提で、これを蔑ろにしているのが今の政治だ」と指摘します。

災害とコロナ禍を経験し、国の無能状態が明確になるなかで「本来あるべき自治体の像が見えてきているのではないか」と述べます。コロナ禍では、自治体内の医療施設への支援策を講じた99市町村、地域の中小・小規模企業への休業補償を358自治体が講じるとともに、施策実現のために多様な医療・経済・労働団体等が声をあげ提案し、自治体独自の調査や施策の立案が進展してきていると強調しました。

そして、「大切なのは三位一体改革で削られた自治体財源や病院や保健所機能を取り戻していくことや、地方自治体がみずから科学的判断のもとに、防疫体制、医療体制、福祉介護体制、産業・雇用の維持を図る施策を立案・実施できるような財源保障や人員確保が必要だ」と訴えました。

おわりに
岡田氏は、「足元から人間性を回復し人々の命を重視する地域づくり・国づくりが災害の時代だからこそ求められているし、『儲ける自治体』ではなく憲法と地方自治法の精神に基づいて一人ひとりの住民の福祉の向上と幸福追求権を具体化するためには、公共の役割をきちんと果たすことが基本。そのためには、住民と科学者・専門家の協力による調査・研究活動の発展と地域での共同の取り組みが重要だ」と強調しました。
 私は、地方議員は市民の声に寄り添い生活の向上を図っていくことが使命であり、市民目線の施策をこれからも提案し続けたいと改めて強く実感しました。